ミステリーの系譜/松本 清張
黒革の手帳だけじゃない、松本清張
本書の著者である松本清張の名と、このタイトルを並べてしまいますと、ファーストインプレッションではこの本はミステリー小説ではないかと思われるでしょう。
いえ、違います。
本書は、大正時代から昭和初期に我が国で実際に起きた3つの事件を紹介及び考察する、いわゆるノンフィクションの内容となっています。
元々この本を購入するに至った経緯は、以前ここのブログにて取り上げた作品『津山三十人殺し』がきっかけとなっております。
同書の中においても、『ミステリーの系譜』を参考文献に挙げた箇所が何点か見受けられたため、ずっと気になっており、職場近くの本屋さんに頼んで取り寄せてもらいました。
津山事件の舞台となった現地でも時間は同様に進んでいる
言葉が適切かどうかは分かりません。
ややもすれば『不謹慎である』とのお叱りを受けそうですが、本書や『津山三十人殺し』を読めば読むほど、私はいわゆる『津山事件』に対しての興味が湧いてきます。
平成の世となった今でも、事件の舞台となった集落では人が住んでいるようで、実際にグーグルマップで現地の風景を調べたりもしてしまいました(気を悪くされた方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません)。
『津山三十人殺し』の際の書評をいささか重複してしまうこととなりますが、私が本書『ミステリーの系譜』に掲載されている事件に触れて感じたことがあります。
それは、古き良き日本の陰の部分の怖さと、『貧困』が生み出す悲劇(3つの内、2つの事件から感じたことですが)の悲惨さです。
『貧困』がもたらす悲劇。そして活字のこれから。
特に、『肉鍋を食う女』については、その『貧困』がもたらす惨劇の最たるものではないかと個人的には思っています。
詳しいことを話してしまいますとネタバレになってしまいますのでここでは触れませんが、『肉鍋を食う女』を読んでからしばらく、私は牛であれ豚であれ、食用の肉さえも食べることができなくなってしまいました。
本というものは、本当に影響力の強いコンテンツではないかと思います。内容一つで読者の食欲を削いだり、時には逆に増幅させたり、はたまた涙を流させることもあれば笑わせることもできます。
情報化社会と言われる今日では『映像』がその役を担っているのでしょうが、年末年始のこの時期…『活字』にそれを求めてみるのも悪くはないのではないでしょうか。
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