国家の品格/藤原 正彦
今回紹介するのは、2005年に発売された新書『国家の品格』。
発行部数265万部超のベストセラーになった本書の著者は、数学者・藤原正彦氏。
藤原氏の父は、『八甲田山死の彷徨い』等の作品で知られる新田次郎氏です。
本書のテーマでもある『情緒と形』には、4つの愛があると藤原氏は述べています。
その内の一つが『祖国愛』。
『祖国愛』と聞くと、一部の方は『ナショナリズム』という言葉を連想してしまうかもしれません。
実際、今年は日韓関係の悪化が目立った一年でした。
貿易紛争や、韓国による軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄など、連日メディアでは数多くのコメンテーターがそれぞれの持論を展開する日々が続き、一部のコメンテーターは『ナショナリズムの暴走』といった暴論を持ち出してまで政権批判を繰り返していました。
しかし、藤原氏は本書の中で『祖国を愛することとナショナリズムは本質的に違う』と述べています。
では…『国家の品格』を要約していきます。
第一章 近代的合理精神の限界
近現代は、『欧米にしてやられた時代』。
産業革命の影響が大きかったが、元々日本の文化や数学は欧米よりも高レベル。
ついて、欧米支配の綻びがやってきた。
各国で見られる荒廃の原因は、『西欧的な論理と近代的合理の破綻』。
競争社会・実力主義社会は安定性を失うことに繋がり、筆者は『武士道精神こそ世界を救う』と考える。
論理を徹底しても、問題の本質的な解決はできない。
むしろ、今日のような破たんを生んだ大きな原因こそが論理そのものである。
第二章 『論理』だけでは世界が破綻する
『論理』だけでは社会が破綻する、4つの理由
①論理の限界
論理を通しても、それが本質をついているとは限らない。
『ゆとり教育』はその一例で、小学生は英語よりもまずは国語を徹底的に固めた方が良い。
②最も重要なことは論理で説明できない
重要なことは、幼いうちから教えなければならない。
『ならぬことはならぬものです』(会津藩 什の掟)
③論理には出発点が必要
論理に必要な『出発点』は、情緒により設定される。
出発点を誤れば、どんな論理も成り立たなくなる。
④論理は長くなりえない
論理は長くなると信憑性が低下し、短いと効用に欠ける。
数学と違い、論理には絶対的な正しさも間違いも存在しない。
第三章 自由、平等、民主主義を疑う
戦後に広まった『自由』という考え方・思想は、やがて『身勝手の助長』へと繋がり、日本古来の道徳や伝統が大きく傷つけられた。
民主主義は『国民が成熟した判断をできる』という前提があれば理想的な政治形態であるが、実際は違う。
その証拠に、第二次世界大戦の際は日本でも軍国主義が支持された。
戦争を引き起こすの、たいてい国民である。
民主主義の暴走を抑えることが出来るのは、真のエリートのみ。
しかし…戦後のGHQ統治により旧制中学・高校は潰され、日本からは真のエリートが消えて弱体化してしまった(現在の官僚は真のエリートではない)。
『平等』は、フィクションや美辞に過ぎない。
日本では古くから、差別に対して惻隠(武士道精神)をもって対応。
論理が通っているように見える民主主義だが、それだけでは上手くいかない。
第四章 『情緒』と『形』の国、日本
これからに向けた解決策が、日本人が持っていた『情緒』と『形』。
①自然に対する繊細な感受性
②変質した無常観(もののあわれ、桜の花など)
③懐かしさと4つの愛(家族愛、郷土愛、祖国愛、人類愛)
わが国が現在直面している苦境の多くは、祖国愛の欠如に起因。
ナショナリズムとは違い、国益よりも自国の文化や伝統などを愛すること。
祖国愛の無い者ほど、無謀な戦争を引き起こす。
第五章 『武士道精神』の復活を
人間にとっての座標軸は道徳、それを育むには『武士道精神』を復活させるべき。
『武士道精神』には、慈愛・誠実・忍耐・正義・惻隠などの概念が含まれていた。
禅や儒教の要素を取り入れることで日本に根付いた『武士道精神』は、昭和初期から失われ始めていった。
その契機になったのが日中戦争(弱い者いじめ)であり、我が国の汚点である。
『武士道精神』の定義付けで参考にすべきは、新渡戸稲造の『武士道』。
『敗者への共感』、『劣者への同情』、『弱者への愛情』が最高の美徳として書かれている。
『武士道精神』に依り、卑怯を憎む心を育て家族の絆を復活させれば苛めなどは無くなる。
論理ではなく、『ならぬことはならぬ』という価値観を押し付けることが重要。
第六章 なぜ『情緒と形』が大事なのか
『情緒と形』には、世界共通の普遍性が存在。
美しい情緒や形が大事な理由は、以下の6つ。
①普遍的価値
日本の生み出した普遍的価値は『もののあわれ』や、『武士道精神』など。
能率・効率が全てではない。
②文化と学問の創造
文学、数学、ガン研究などでも日本人は豊かな情緒を武器に独創的なものを世に送り出してきた。
③国際人を育てる
日本人は外国語を勉強するよりも、読書などを通して国語を学ぶべき。
それが情緒や形を育むことに繋がる。
④人間のスケールを大きくする
論理の出発点を適切に選ぶには高い総合判断力が求められるが、情緒の有無によってここに大きな違うが生まれてしまう。
⑤『人間中心主義』を抑制する
欧米によって生まれた『人間中心主義』は、傲慢な考え方。
『人間は、偉大なる自然のほんの一部に過ぎない。』
⑥『戦争をなくす手段』になる
論理は自己正当化のための道具でしかなく、それだけでは戦争を止められない。
情緒は『戦争をなくす手段』になるため、日本は世界に向けて発信しなければならない。
第七章 国家の品格
高度経済成長期を経て大きく発展した日本だが、その代償に『国家の品格』を失ってしまった。
長期的に経済発展する国は、必ず数学や理論物理に秀でている。
国家の底力と数学力は比例する。
天才を生む土壌には、以下の3つの共通点が存在。
①美の存在(その土地の美が、天才を輩出)
②跪く心(自然や伝統を重んじる)
③精神性を尊ぶ風土(文学、芸術など)
日本は天才を生む条件を満たしており、江戸時代の識字率は世界最高水準だった。
我が国は多少の経済成長を犠牲にしてでも品格ある国家を目指し、『武士道精神』の発信など国際貢献を果たしていかなければならない。
現代を荒廃に追い込んでいるのは、自由と平等という考え方。
それよりも日本人が元々持っている『情緒や形』を再び身に付け、世界に示す必要がある。
それが『国家の品格』である。
関連