大本営参謀の情報戦記 浅見家の本棚 #85

浅見家の本棚

大本営参謀の情報戦記/堀 栄三

アメリカ軍から見た、日本軍の5つの敗因

皆さんもご存知の通り、我が国は先の大戦…つまり第二次世界大戦においてアメリカ軍に降伏し、敗戦国となりました。
現代では歴史関係の研究が進み、敗戦の様々な要因が各所で述べられているところですが、結局は野球の野村監督が自身の著書で語っていた(野村監督もどこからか引用したらしいですが…)、

『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』

という言葉に尽きるのだと、私はこの本を読んでいて改めて実感した次第であります。


この本は大戦中に大本営情報参謀として数々のアメリカ軍の戦略や作戦を的中させた堀栄三氏自身によって書かれた作品でありまして、読み進めていくと共に『第二次世界大戦は負けるべくして負けたのだ』という結論に至りました。

本書がユニークな点は、敵であるアメリカ軍から見た日本軍の5つの敗因が述べられている点です。
以下、引用により列挙します。

①国力判断の誤り
②制空権の喪失
③組織の不統一
④作戦第一、情報軽視
⑤精神主義の誇張
(本文より引用)

流石、敵側からみた客観的な視点は物事をシンプルかつ正確に射ていると言えます。
もうこの5点に尽きるのではないかという位の分析結果に、作者の堀氏は自身の見解を踏まえて解説していきます。

悲劇の発端は日露戦争!?

まず前提として、私は個人的に太平洋戦争に日本軍が敗れてしまった事の発端は、日露戦争にあると常々思っていました。
あの戦争で奇跡的な勝利(しかもごく僅かな)を収めてしまった我が国には、ある種の錯覚が生じてしまったのです。
望外の結果に驕り、陸軍は奉天会戦時代の歩兵主義、海軍は大艦巨砲主義のまま思想が止まったままとなってしまったのです。
それを踏まえて考えて頂くと、作者の堀氏とアメリカ軍の分析は揺るぎないものとなります。

最初に、①国力判断の誤り。
物資の面も勿論ですが、近代戦争の国力とは『鉄量』を意味します。
かつての日露戦争における旅順で鉄量の重要さを痛感したはずの日本軍は、数十年の時を経ても反省や進歩を見せることはなく(後程触れますが)、同じ過ちを繰り返すのです。
結局、鉄量を破るものは突撃などではなく、敵の鉄量に勝る鉄量しかないのです。
精神力だけでは、なんともなりません。

続いて、②制空権の喪失。
先程述べた通り海軍は大艦巨砲主義が基本となっており、それが戦略上アメリカ軍との大きな差を生んでしまったといえます。
開戦当初、日本は太平洋の島々を次々と占拠していきました。
一見、それは快進撃のようにも見えるのですが、アメリカ軍の目的は島や土地の占拠ではなかったのです。
太平洋は守るに損で攻めるに得な、特殊な戦場です。
敵は空域を占領していき、物量にものを言わせて我が国の国土にも戦闘機を次々と送り込んでくる一方で、島に籠る日本軍は届かぬ食糧等の物資を待ちながら、飢えとの闘いを強いられていました。
これでは勝ち目がありません。

③組織の不統一について。
堀氏によりますと、日本軍とアメリカ軍の作戦当事者の間には実に20年余りの開きがあったということです。
日露戦争以降、軍中枢部の人間は戦略や戦術の研究は行わず、権力のイスを欲しがり、政治介入に夢中になっていた模様です。

次に④の作戦第一、情報軽視。
あまりにも有名な話ですが、日本軍の暗号はアメリカ軍に解読されてしまっていました。
それだけならまだしも、本書によるればアメリカ軍は開戦当初日本にある程度の暗号を盗ませておいて、開戦一カ月後にはそれらを改変することで、こちら側を計画的に追い込んでいったというのです。

最後に⑤の精神主義の誇張。
もうこれに関しては、何も言いますまい。
神風は起きません。
自動小銃に歩兵が突撃を加えていって、果たして戦果は生まれるでしょうか?

『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』

繰り返しになって恐縮ですが、重要なのでもう一度。

『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』

本当に重い言葉です。
その時代の誤った一握りの指導者がいたお陰で、我が国は歴史的惨敗を喫し、多くの悲劇が生まれたのです。

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