【亡き内田康夫さんを偲ぶ、記念すべき一冊】南紀殺人事件/内田康夫

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南紀殺人事件/内田 康夫(光文社)

こんにちは、久しぶりの書評記事を投稿させて頂きます。
今回紹介する本は…『南紀殺人事件』、著者は【浅見光彦シリーズ】でお馴染みの内田康夫さんです。

既に何度かお話したことがありますが、私のハンドルネーム(浅見ヨシヒロ)にある”浅見”という名字は、内田康夫さんが生み出した名探偵・浅見光彦から拝借しております。

 

そんな【浅見光彦シリーズ】をはじめとする内田作品を愛する私が、本書『南紀殺人事件』に出会ったのは2021年の夏。

『ん?内田さんの作品だけど、見たことないタイトルだな…。まさか未発表作品か!?』
と…中身をよく確認もせずに購入してしまったのですが、家に帰って読み始めてみると様子がおかしい。

どうおかしいのか?
『どこかで読んだことがあるような…』そんな既視感があったのです。
その内容も踏まえて、今回の記事を書き連ねていこうと思います。

【概要・目次】南紀殺人事件

まずは、本書『南紀殺人事件』の概要について紹介したいと思います。
本書の著者であり【浅見光彦シリーズ】の生みの親でもある内田康夫さんですが、皆さんもご存じのとおり2018年に既にお亡くなりになっています。

内田さんは、いわゆる”旅情ミステリー”の第一人者としても知られています。
前述の【浅見光彦シリーズ】が代表作ですが、その他のシリーズを含めると内田さんの作品の累計発行部数は1億部を超える…とのこと。

そんな内田康夫さんの作品『南紀殺人事件』の概要と目次は以下のとおりです。
目次には『還らざる柩』・『鯨の哭く海』・『龍神の女』という三つが記載されていますが、こちらは各短編作品となっています。

概要(Amazon紹介ページより引用)

大学教授の和泉とその妻・麻子。
二人が出合う、紀州に潜む三つの難事件とは?
南紀州の熊野那智、太地、龍神を主舞台に、内田作品の醍醐味を満載! 書籍初収録作品を含む、旅情ミステリーの魅力あふれる連作集が登場!内田康夫没後三年特別出版!

『南紀殺人事件』 目次

還らざる柩
鯨の哭く海
龍神の女



【読後の感想】『南紀殺人事件』を読み終えて

まず触れておかなければならないのは、本書『南紀殺人事件』の構成について。
タイトルこそ『南紀殺人事件』と名付けられていますが、実は本書は長編作品ではありません。

南紀殺人事件の構成について

上記でも既に述べたとおり、目次を構成している『還らざる柩』・『鯨の哭く海』・『龍神の女』という3つの短編作品が掲載されておりまして、これらの舞台が紀伊半島…つまり南紀となっているのです。

この3つの短編は、後に加筆修正を経て実際に出版された作品の原作です。
実際に、『還らざる柩』と『龍神の女』は1991年に『熊野古道殺人事件』として出版されました。
また、『鯨の哭く海』については2001年に同タイトルにて改めて出版されています。

ほぼ全ての内田康夫さんの作品を読んでいる私にとって、冒頭に感じた違和感とはタイトルに対する既視感だったのです。

生まれ変わる形で出版された『熊野古道殺人事件』と『鯨の哭く海』の主人公は…お馴染みの浅見光彦
一方、本書に掲載されている原作の主人公は、大学教授の和泉直人という人物です。
主人公が違うこともあり、『熊野古道殺人事件』と2001年版の『鯨の哭く海』を読んだことがある方でも十分楽しめるでしょう

南紀殺人事件のあらすじ

3つの短編の内の1つ、『還らざる柩』のあらすじについて簡単に紹介します。
ネタバレにならないように努めますが、これから『南紀殺人事件』を読む…という方は念のためご注意願います。

既にご紹介しましたが、『還らざる柩』の主人公は大学教授の和泉直人という人物。
『還らざる柩』の物語は、和泉が教授仲間の松岡から『補陀落渡海(ふだらくとかい)』に関する相談を持ち掛けられるところから始まります。

『補陀落渡海(ふだらくとかい)』とは?

ここで現れた『補陀落渡海』というキーワードは何でしょうか?
wikipediaには、『補陀落渡海』について以下のとおり解説が書かれています。

※wikipediaより引用

この行為の基本的な形態は、南方に臨む海岸から行者が渡海船に乗り込み、そのまま沖に出るというものである。
その後、伴走船が沖まで曳航し、綱を切って見送る
場合によってはさらに108の石を身体に巻き付けて、行者の生還を防止する。
ただし江戸時代には、既に死んでいる人物の遺体(補陀洛山寺の住職の事例が知られている)を渡海船に乗せて水葬で葬るという形に変化する

解説を見るとおおよその見当は付きますが、要は”生きた僧侶を舟に乗せて海に漂流させる捨身業”といったところでしょうか。

具体的な相談内容は、松岡が指導している学生達が『補陀落渡海』を実行しようとしている…というもの。
松岡は『何か事故でも起こりはしないか…』という不安を抱き、和泉に同行を求めてきます。

しかしながら…本書はミステリー小説ですから、もちろん何も起きないわけがありません。
結局、和泉松岡の目の前で『補陀落渡海』を実行した人物のうちの1人が、不可解な死を遂げてしまいうことで物語は局面を迎えていきます。

和泉は事件に関わっていく中で、ある人物を犯人と断定。
その人物に、真実を突き止めたことを告げるのですが…。



【まとめ】『南紀殺人事件』

結論として、今回の記事をまとめます。

『還らざる柩』の主人公を務めるのは、和泉直人(大学教授)。
和泉浅見光彦のように名探偵ぶりを発揮して犯人を捕まえるわけではありませんし、そもそも他の推理小説のように、『還らざる柩』には本格的なトリックが登場するわけでもありません。

結果的に『還らざる柩』において、和泉は真犯人を突き止めることに成功。
普通の推理小説であれば最後に刑事が登場して真犯人を逮捕する…という結末を迎えるのでしょうが、和泉は事件の解明を告げるのみで、それ以上のことはせずに終わります。

推理小説好きな方にとっては、その結末が物足りなく感じることでしょう。
しかしながら…内田康夫さんの描く”旅情ミステリー”の魅力は、それとは違ったところにあると個人的には思っています。

”旅情ミステリー”というジャンルの作品は、実際にその土地を旅行した気分にさせてくれます。
そして何より…新型コロナウイルスの影響によって思うように観光ができない今、余計に旅情というものをかき立ててくれる存在でもあります。

内田康夫さんという偉大な作家が亡くなってから3年が経ちます。
当然ながら現在の私達は、過去の内田作品を読むことしかできません。

その中でも『南紀殺人事件』に掲載されている3つの短編は、主人公が浅見光彦ではない珍しい作品です。
既に述べましたが、『還らざる柩』と『龍神の女』の2作品は主人公を浅見光彦に据え、『熊野古道殺人事件』というタイトルで1991年に出版されました。

また…『鯨の哭く海』はタイトルこそ同じですが、やはり【浅見光彦シリーズ】として2001年に出版されましています。
本書『南紀殺人事件』と、【浅見光彦シリーズ】の『熊野古道殺人事件』・『鯨の哭く海』を読み比べてみるのも、良いのではないでしょうか。

 

[Amazonのアソシエイトとして、私、浅見ヨシヒロは適格販売により収入を得ています。]

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