新説 母馬血統学(吉沢 譲治)

浅見家の本棚

新説 母馬血統学/吉沢 譲治

競馬好きにとって、秋はGIレースが続く熱い季節です。
競走馬は大きく牡馬(オス)と牝馬(メス)に大別されますが、今週末は牝馬限定の大レース『エリザベス女王杯』が開催されます。

一昔前であれば、『エリザベス女王杯』は牝馬ナンバー1を決めるレース。
優勝馬は文字どおり『女王』の称号を得られるのですが、牝馬にとっては競争生活の後に、繁殖という新たな使命が待っています。

今回は本書『新説 母馬血統学』を要約し、競走馬の生産に種牡馬ばかりがスポットライトが浴びているのは誤りであることを学んでいきたいと思います。

第一章 母の力 ~母系血統に秘められた能力~

サラブレッドの血統では父親や父系ばかりが注目されがちであるが、母系(母)の資質こそが大きなカギとなる。
流行の血統ばかりを追求すると、距離適性の縮小や成長力が削がれる恐れがある。
特にアメリカでは、血統の飽和が起きつつある。



第二章 母の履歴書 ~ジェネラス・スタッド・ブック~

イギリスにおけるサラブレッドの血統書『ジェネラス・スタッド・ブック』は、1791年に出版(序巻)された。
当初は、血統詐称等の不正防止が目的だった。
その後、『ジェネラル・スタッド・ブック』は徐々に地位を確立。
しかし…サラブレッドの定義がなされていなかったため、後年大きな問題が生じてしまった。

第三章 母の記号 ~ファミリーナンバー~

ブルース・ロウにより、根幹牝馬ごとに分類されたファミリーナンバー。
三大クラシックを勝利した馬の数の順に付けられている。
母系直系の流れは、ボトムラインとも呼ばれる。
ファミリーナンバーは血統理論としては崩壊しているものの、父系のみに焦点が当てられていたサラブレッドの血統に『母系』という新たな視点を生み出した。
ブルース・ロウの功績は大きい。

第四章 成功する母 ~名牝の条件~

条件クラスや不出走馬の牝馬から名馬が産まれたケースが多いが、競走馬として活躍した牝馬の方が、相対的に優れた繁殖成績を収めている。
繁殖牝馬の出産時の年齢と、産駒の成績には相関性が見られる。
獣医学の発展により下降線をたどり始める年齢は延びているが、概ね15~17歳がピーク終了の目安。



第五章 母の事情 ~生産を担う牧場のドラマ~

馬を売るマーケットブリーダーの中には、『貴重な後継牝馬を残すため』に将来を考えて牝馬を占いケースが多い。
バブル崩壊以降、生産界は厳しい状況に陥っている。
多くは零細牧場のため『預託契約』で収益の安定を図っているが、力尽きる牧場も少なくないことから、牝馬の復帰率は6割程度となっている。
これまで日本と海外とでは、『生産者』の定義が違っていた。
2001年以降、繁殖牝馬の所有者が『生産者』となることになった。

第六章 母の相性 ~ニックスと代用血統~

ニックスの追求は勝利への近道だが、長期的に見ると血統の飽和につながり、やがて生産者自身の首を絞めることとなる。
1970年代のアメリカでは、『ボールドルーラー×プリンスキロ』の配合で多くの名馬が誕生。
零細牧場では似た配合の代用血統を活用、そこからシアトルスルーが産まれた。

第七章 日本の牝系① ~スペシャルウィークへの道~

岩手県にある小岩井農場は、三菱財閥の資本を背景に作られた。
その小岩井農場がイギリスから輸入した牝馬を祖とするのが、『小岩井牝系』。
小岩井農場が昭和3年に輸入したフリッパンシーという牝馬からは、日本競馬史上初の三冠馬となったセントライトが産まれている。
戦後の財閥解体の影響もあり、小岩井農場のサラブレッド生産は終了。
『小岩井牝系』は各地の牧場に引き取られ、その中からキタノカチドキニホンピロウイナースペシャルウィークウオッカらが誕生。



第八章 日本の牝系② ~トウカイテイオーへの道~

トウカイテイオーは、小岩井農場と双璧の存在だった下総御料牧場の牝系から出た名馬。
ヒサトモから発展した牝系がルーツである。
現代の配合は、全体的に仕上がりの早さやスピードを求める傾向にある。
成長力とスタミナを持つ在来牝系がその欠点を補うことで、これからも重要な役割を担っていく。

第九章 母の父 ~ブルードメアサイアーの性質~

種牡馬は、母の父として活躍するケースも多い。
サンデーサイレンストニービンブライアンズタイム産駒の活躍の影には、マルゼンスキーをはじめとする母父の後押しもあった。
有名なアガ・カーン一族の名馬には、『マイラー系種牡馬×スタミナ系繁殖牝馬』という配合パターンが多い。
目先の利益ばかり追求し、母系にステイヤー血統の注入を怠ると長期的な成功は見込めない。
母系は、父系の欠点をカバーする極めて重要な存在。
スピードや早熟さを求められている近年の競馬において、成長力やスタミナを持った母系がこれからのサラブレッド界を支配する。

以上が、『新説 母馬血統学』の要約でした。
このようなサラブレッドの血統に関する本を読むと、競馬シミュレーションゲームの金字塔『ウイニングポスト』シリーズをプレイしたくなりますね。

実際、私はニンテンドースイッチ版『ウイニングポスト9 2020』を購入。
睡眠不足になりながらの競走馬づくりの生活を、ゲームではありますが体験して楽しもうと思います。

競馬好きの方は是非、吉沢 譲治さんの『新説 母馬血統学』を読んでみて下さい。
これまでとは違った競馬の見方が出来ると思います。



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