「イギリス社会」入門/コリン・ジョイス
最近耳にする『イギリス』の話題と言えば、やはり今年に入ってから増々混迷を極めているEU離脱に関する問題。
2016年に実施された国民投票では離脱派が残留派を上回った(本当に僅かの差でしたが)わけですが、EUとの間で合意に達した離脱協定に関し、議会では既に2回も否決されてしまいました。
本書が刊行されたのは2011年なので、当然ながらEU離脱については触れられていませんが、そのような複雑なイギリスの皆さんの国民性が随所に垣間見える『「イギリス社会」入門』を、今回は要約していきたいと思います。
階級 みすぼらしい上流、目立ちたがる労働者
イギリスでは、今も階級が生き続けている。
しかし…気取ったアクセントや仕草などは、むしろ笑われてしまうので上流階級の人達には質素な身なりをしている人が多い。
それに反して労働者階級は『誇示的な消費者』で、お金をどんどん使う。
その一方で、中流階級の人々は昔ながらの倹約を美徳としている。
天気 今日も『くもり時々雨、時々晴れ』
イギリスの気温は4℃~17℃。
1日に2~3回、雨が約10分ずつ降る。
『みんな天気の話に夢中だが、それをどうにかしてやろうという人は一人もいない』
国旗 ユニオンジャックは優れた輸出品
ユニオンジャックは、他国の国旗にも入り込んでいる。
これは、過去に多くの植民地を持っていたことに関係している。
ユニオンジャックが作られたのは、今から400年前。
イングランドが初めての連合をスコットランドと組んだことを記念して作られた。
その200年後にアイルランドも加わったことで、現在の形になった。
住宅 イギリス人がいちばん好きな話題
どんなに粗末でも家はイギリス人の誇りであり、会話の中に最も多く登場する話題の一つである。
時には政治にも大きな影響を及ぼし、内閣の支持率や選挙の結果をも左右した。
料理 フランス人にはわからない独創性
イギリスといえば『フィッシュ・アンド・チップス』。
実際は『チップ・バッティ』(バターを塗ったパンにチップスを挟む)を食べる。
労働者階級の食事として発達したため、高カロリーで安いことが最優先された。
王室 昔、英語を話せない国王がいた
王室は永続性の象徴のように見えるが、実際の系譜はそうでもない。
一つの王家が、時には国と国を行ったり来たりすることもあった。
現女王の一族は、民族的にいえばほとんどドイツ人。
結婚 ロイヤル・ウエディングの新常識
イギリス人同士の結婚であるウィリアム王子のロイヤル・ウエディングは祝福された。
式には中流の雰囲気が取り入れられ、一般人も数多く招かれた。
王室は、国民に近い存在になろうとしている。
表現 スズメバチをかんでいるブルドッグ
イギリス人は他人に厳しく、その表現方法は遠回しに言っているものもある。
○『口ばかりでズボンなし』(自慢話の多い人に対する表現)
○『前に出ることに後ろ向きではない』(自信に満ち溢れている人を指す)
薀蓄 てっとり早くイギリス通になる方法
○『ハートリプールでは猿が死刑になったことがある(らしい)』
○二人の少女が妖精を写真に撮り、学識のある人達を騙した
○ロンドンブリッジは解体され、米アリゾナ州へ移築された
○イギリス人は動物にも勲章を与える
英雄 『偉大』なイギリス人
2002年に実施された『偉大なイギリス人100』には、黒人が一人も入っていない。
この辺りが、イギリスとアメリカの大きな違い。
指摘を受け、その後『偉大な黒人のイギリス人』の投票も行われた。
私淑 敬愛するジョージ・オーウェル
『1984年』で知られるオーウェルだが、その本質はノンフィクション。
『ウィガン波止場への道』では、1930年代の北イングランドでの労働者階級や失業者の生活が見事に描かれている。
オーウェルはエッセイの中で、自分にとっての完璧なパブを書いた。
このポイントを参考に作られたパブが、今では全国チェーンにまで育っている。
紅茶 お茶は世界を生き返らせる
イギリスとアイルランドでは、客が来たらお茶を入れなければならない。
第二次大戦中には『お茶は世界を生き返らせる』というポスターも作られた。
『美味しいお茶を飲めば、世界はそんなに悪い場所には見えない。』
飲酒 酔っぱらいはこうして生まれる
イギリス人はフェアプレイの精神を持っているので、パブでの順番はきちんと守る。
特徴的なのは、グループでメンバー同士互いに奢り合う『ラウンド』。
たいていのイギリス人は、『ラウンド』で苦い経験をしている。
酒場 パブは歴史、文化、伝説の宝庫だ
パブの名前には、歴史や文化、伝説にちなんだものが多い。
最も多い名前は『レッド・ライオン』。
エドワード3世の三男、ジョン・オブ・ゴーントの紋章である。
歴史 ぼくのお気に入りの英国史
○モルドンの戦い(991年)
○バトル・オブ・ブリテン(1940年)…第二次大戦、ドイツの無敵神話を粉砕
○本当にドイツに勝てた年(1966年)…自国開催のサッカーW杯で優勝
○ブーディカの戦い(60年)…『戦う女王』の元祖、ブーディカ
留学 イギリスにやってくる友人への手紙
列に横入りしてはいけない、道で誰かにぶつかったら『ソーリー』と謝ろう。
天気の話題には上手く対応できるようにしておこう。
紅茶を勧められたら断らず、ミルクと砂糖が必要かどうか答えること。
握手のコツは『右手を出し、3~5秒で離す』。
クリスマス等の祝日には、交通機関は普段通りには動かない。
スコットランド人に会ったら、イングランド人と間違えてはならない。
イギリスがヨーロッパの一部であるようなことも言ってはならない。
風物 好事家向けスポーツカレンダー
○『ジ・アッシズ』…かつてルールを巡り、オーストラリアとの政治問題にまで発展。
○『イートン・ウォール・ゲーム』…世界で最もマイナーなスポーツ。
○『サッカー国際試合』…初めての国同士の試合(イングランド対スコットランド)
○『サ・ボートレース』…オックスフォード大とケンブリッジ大の対抗戦(テムズ川)
伝統 ニュー&オールド・ブリテン
『古いイギリス』を代表する首相を選ぶなら、【W.E.グラッドストーン】。
その対極にあるブレアは、外国の戦争に首を突っ込み、多額の税金を使い果たした。
イギリス伝統の『ボンファイア・ナイト』。
ハロウィンよりも歴史がある文化だが、アメリカの影響で死に瀕している。
品格 これぞ、イギリス
万人に開放された『オープンランド』やメドウ(公共の牧草地)、『パブリックフットパス』は、イギリスが他国に誇ることのできるもの。
街中に漂う歴史も濃密。
ビクトリア期のテラスハウスは幾つもの通りにあるし、パブにも様々な年代の物が置いてある。
イギリス版の納豆『マーマイト』は、多くの人に嫌われている。
1瓶消費するのに、1年程必要。
現在、このブログで攻略記事をお届けしている『ドラゴンクエスト3』。
イギリスがモデルになっている『エジンベア』の人々は、他国の人を『田舎者』と見下す、いけすかない感じです。
しかしながら…本書の内容を追っていくと、そんなイギリス人も人間味溢れる国民性であることが分かります。
このような面白味のある国民性を事前知識として備えた状態で、現在のイギリス議会の混乱を見てみると…不謹慎ではありますが、何やら喜劇のような雰囲気を感じてしまうのであります…。
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