血のジレンマ サンデーサイレンスの憂鬱(吉澤 譲治)

浅見家の本棚

血のジレンマ サンデーサイレンスの憂鬱/吉沢 譲治

 

去る7月30日にディープインパクト、そして8月9日にキングカメハメハという2大種牡馬が相次いで亡くなってしまいました。

巷では、この偉大な2頭の後継種牡馬にスポットが当てられていますが、日本のサラブレット生産界は大きな問題を抱えています。



それは、本書で触れられている『格差社会』と『血のジレンマ』。
競馬後進国だった日本を、世界水準にまで引き上げたのはサンデーサイレンスという革命的種牡馬でした。

今回は、本書『血のジレンマ サンデーサイレンスの憂鬱』により、日本競馬界の抱える問題について考えていきたいと思います。

序章 『ジレンマ』はもう始まっている

長きに渡り、リーディングサイアーに君臨したサンデーサイレンス。
日本の競馬を国際レベルにまで引き上げた一方で、大きく深刻な格差社会を作り上げてしまった。
そんな中、2010年にキングカメハメハがリーディングサイアーに輝く。
その背景にあるのは、サンデーサイレンス系後継種牡馬や繁殖牝馬達による、血の共食い。

第1章 サンデーサイレンスとは何だったのか



アメリカ年代代表馬に輝いた、サンデーサイレンス。
マイナーな血統背景から種牡馬としての前途に疑問符が付けられていたこともあり、社台ファームが購入し、日本で種牡馬入りした。
サンデーサイレンスは、配合牝馬の良さを産駒へと伝える柔軟性を持っていた。
社台グループが擁する一流の繁殖牝馬との間に名馬を数多く輩出していくことで、格差社会を明確にさせていった。
当時の社台ファームの課題は、『急増したノーザンテースト牝馬に合う異形種牡馬の模索』。
その成果が、リアルシャダイやサンデーサイレンスの導入だった。
サンデーサイレンスは、初期よりも後期にスケールの大きな産駒を産み出した。
配合相手の傾向がノーザンダンサー牝馬から欧州系へと変わり、数少ない弱みだったスタミナや成長力が補われたためである。

第2章 サンデーの敵はサンデー

医療技術の進歩により、昔と比べて種牡馬の種付頭数は増加。
大量生産が可能となったが、人気種牡馬への一極集中化を進めることとなり、産業構造が大きく変わってしまった。
サンデーサイレンス系の優秀な馬同士を配合することは出来ず、それが異系種牡馬の台頭を許す一因となりうる。
これは、歴史的名種牡馬セントサイモンの状況と酷似(セントサイモンの悲劇)。
サンデーサイレンスにはノーザンダンサーやミスタープロスペクターの血が入っていなかったことが、成功の要因。
この状況が続くと、行き着く先で待っているのは『血のジレンマ』。

第3章 フジキセキ 孝行息子の肖像

全ての始まりは、フジキセキ。
当初、サンデーサイレンスの代用血統的存在だったが、日本産馬初のシャトルサイアーとしてオーストラリアへ渡るなど、国内外で活躍した。
シャトルサイアーのメリット
①中小牧場でも、海外種牡馬の種付けが可能。
②世界各地に血が分散することで、その血統の埋もれた才能が開花する可能性がある
父サンデーサイレンスが格差社会を作っていく中で、フジキセキはそのフォロー役に回り、中小の牧場を長らく支えた。
もしフジキセキがいなければ、格差社会は今以上に深刻だったかもしれない。



第4章 代用血統の可能性

サンデーサイレンスの代用血統だったフジキセキでも、種付料は400~500万。
早熟のようでしぶとい成長力を持ちタフな体を持っていたステイゴールドは、フジキセキの代用血統となった。
サラブレッドは名馬も未勝利馬も遺伝子構成はほぼ同じで、どの馬も成功する可能性を持つ。
ヴァイスリージェント、ダンジグ、ミスタープロスペクターも、始まりは代用血統
日本の競馬は、長らく代用血統の歴史(ネヴァービート、テスコボーイ、パーソロン等)。
バブルによって良血馬が入ってくるようになり、格差社会を産むこととなった。
サンデーサイレンスの血は、狭い日本だけに置いておくべきではない。
世界各国へ送り出してアピールし続けていかなければ、その血を飼い殺してしまうこととなる。

第5章 異系種牡馬の逆襲

ミスタープロスペクターを助けたのは、当時主流だったノーザンダンサー系牝馬。
日本でもキングカメハメハがサンデーサイレンス系牝馬を味方に、リーディングサイアーを奪取。
サンデーサイレンス系・ミスタープロスペクター系の繁栄は、仕上がりの早さとスピードだけではなく、スタミナと成長力を意識した配合がもたらした。
それをいち早く読んだ者と、そうでない者の差が現在の格差社会という結果。
現在活躍する非サンデー系の多くは『異系の仮面をかぶったサンデーサイレンス』。
これから求められるのはサンデーサイレンスの血が入っていない馬で、生産界から重宝されるだろう。
時には、意識してサンデーサイレンスの血を入れない配合も必要となる。
時流に左右されないオーナーブリーダーの「血統が定期的に成功を収めてきたのには、そこに秘密があった。

第6章 無敵の牝馬が象徴するもの



サラブレッドの歴史を見ると、牝馬の活躍が一定周期で訪れる。
それは、長く君臨し続けてきた種牡馬の逝去により、血統状況が群雄割拠の状態となった時である。
その原因は、牡馬全体のレベルダウン。
名種牡馬の後継達に対する繁殖牝馬が分散し、それが牡馬達の弱体化を招いている。
天才(サンデーサイレンス)の子は、秀才でしかない。
『血のジレンマ』は欧米でも起きている。
欧州ではサドラーズウェルズ系、北米ではミスタープロスペクター系・ノーザンダンサー系がそれぞれ主流となっている。
市場が小さい日本では、サンデーサイレンスの血が停滞してしまう。
サンデーサイレンスの血を活かす最適な環境は、欧米にこそあり。
それが、血の活性化へと繋がる。

終章 『ジレンマ』から逃れるために

年始に行われる、JRAの授賞式。
登壇するのは、どの部門も社台グループの面々ばかり。
生産界の各社社会を象徴する光景と言える。
かつて社台ファームのライバルだった、早田牧場。
名種牡馬ブライアンズタイムを擁して名馬を数多く輩出したが、最終的に破産。
結果、日高と社台の格差は大きく広がった。
社台グループは『血のジレンマ』会費のため、繁殖馬の入替を展開。
しかし、これは日本のサラブレット生産界に落ちた資金が海外に流出していることを意味し、増々市場縮小に拍車がかかってしまう。
『血のジレンマ』を防ぐにはサンデーの血を欧米に連れ出し、外貨を獲得する必要がある。
社台グループには、日本を世界最高峰の馬産地にする位の使命を持ってほしい。



この記事は2017年11月29日に書いたものをリライトしました。
ディープインパクト、キングカメハメハという名種牡馬の逝去に際し、心より哀悼の意を表します。

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